虹の橋の下に住むミア

ミアは、虹の橋の下に住む女の子。誰が親とかはないんだけど、なんとなくここに住んでいて、ここにくる人たちが、ミアのお世話をしている。ミアはまだ小さいし、自分で髪の毛を解くこともできないから、人々は、ミアのことが気になって、ここに集まってくる。

「ミア、ケーキを焼いたから、食べてごらんよ。」
「ミア、熊の毛皮で毛布を作ったから、これを寝床にお使いよ。」

ミアはあんまり喋らない。だけど、人々はミアに何かを持ってきては、いろいろお話しし始めるんだ。一通り話を終えると、「ミア、またくるね」と言って帰っていく。来た時はひしゃげていた人も、帰り道は、少し満足げになるんだ。どうもミアは、小さいけど、ここにくる人よりも長くここの住んでいるという噂だ。

ある時、虹の橋の下で、黄金色に輝く麦がとうとう収穫の時を迎えたのだ。この麦は、毎年必ず実を結ぶわけではなかった。実際、実がなるのは、数十年とか、数百年、数千年、数万年とも言われている。みんな本当のことは知らず、ここにくる人の中で、ここの麦が実ったのをみたことがある人は誰もいなかった。

ミアが朝起きて、虹のたもとに立った時、世界が金色に光っているから驚いた。目がおかしくなっちゃったのかと思うくらい、黄金色の光で輝いていたからだ。ミアはしばらく見ていたが、そのうち、麦畑の向こうにもう一つ虹があるのが見えたんだ。いつもある虹の橋は、こことあそこを結ぶものだけど、今見えている虹は、その数倍はある巨大なものだった。

ミアは、この橋のたもとまで、たわわに実る麦の脇を抜けて、行ってみた。ふっくらした麦は歩いていくミアを飲み込んでいくようだ。

今日、朝一番に集まった人が見たのは、いつもいるところにミアがいないということと、麦が光っていたこと、そして麦畑の真ん中にある巨大な虹だった。
眩しくてみていられないと目を閉じて、しばらくして目を開けたら、もう巨大な虹は消えかかり、麦も刈り取られた後だった。見ていた人は、何故だかわからないけど、涙が出てきたそうだ。

ミアはもういなんだな、あの巨大な虹を上って行ったんだな、よかったな、と思ったそうだよ。

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自分の背よりも高く生い茂る、黄金色の麦畑を抜けて巨大な虹のたもとにたどり着いたミアは、ふと後ろを振り返りました。

今日来るはずだった人はびっくりするんじゃないかな。自分がこの虹の橋を渡ると、たぶん今日だけでは帰ってこられないだろうな、と思いました。それでもミアは、目の前にある巨大な虹の橋を上り始めていました。

虹の橋には、階段がついていて、それを一段一段登っていきます。ミアが登ってきた階段は、一段ずつ溶けてなくなっていきます。下界の麦畑は、もう収穫が終わってしまったようで、たくさんの麦の束が山ほど積まれているのが小さく見えました。私帰れるのかしら?と少し心配になりましたが、大丈夫だよ、というように先に続く階段は、しっかりと上へ上へと連なっていきます。

これは、まるで、さっきまでいたところに降りてきたときとおんなじだわ!突然昔の記憶が思い出されて、ミアは呟きました。あの時もどこへいくのかわからないまま、筒の中を抜けて行って、気付いたらあの麦畑にいたんだった。違うのは、あの時は降りていたけど、今は登っているということ。そしてもっと大きな橋だということです。

どれくらい登ってきたかもうわからなくなった頃、ミアは、虹の下を流れる川に気づきました。川べりには、真っ黄色の小さなキンポウゲがピカピカに輝いて咲いています。思わず立ち止まり、川の中に足を入れて、キンポウゲに手を伸ばしました。その瞬間、ミアはこれまで出会った人々の姿をみました。交わした会話を全て思い出しました。一瞬にして、ミアの細胞の中に閉じ込められていたその光景が、弾けて分解されて溶けていくようでした。ミアは、これらの時間が愛おしく感じられ、そして涙が出ました。そして、同時に、あの世界の人々に別れを告げたのでした。

川にはキンポウゲの花だけが流れていきます。

下の麦畑で、ミアを待っていた人々のところに、黄色の花びらがフワフワと落ちてきました。それを手にした人は、ミアと過ごした時間のことを全身で思い出して、そして永遠に忘れたのでした。

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